長野家庭裁判所松本支部 平成11年(少)222号 決定 1999年4月23日
少年 HS(昭和59.10.27生)
主文
少年を医療少年院に送致する。
理由
(罪となるべき事実)
少年は、
第1 平成10年11月22日、長野県松本市○○××××の×○○寮自転車駐輪場において、同所に駐輪してあったA所有の自家用普通自動二輪車1台(時価20万円相当)を窃取し
第2 同年11月30日、B、Cと共謀の上、同市○○××××番地×○□駐輪場において、同所に駐輪してあったD所有の第一種原動機付自転車1台(時価2万円相当)とウインドブレーカー(時価1000円相当)を窃取し
第3 同11年3月23日午後10時30分ころ、Eと共謀の上、同市○□×××番地×○△アパート西側空き地において、同所に駐輪してあったF所有の自家用普通自動二輪車一台(時価5万円相当)を窃取し
第4 同年3月28日午後7時35分ころ、同市○△×丁目×番××号先市道上において、公安委員会の運転免許を受けないで、自家用普通自動二輪車(ホンダCBR250R、車体番号MC××-×××××××)を運転し、かつ、同車後部に地方運輸局長により指定を受けた車両番号を記載した車両番号標を表示しないで運行の用に供し
第5 前記日時ころ、業務として前記車両を運転し、前記場所先道路を○○方面から○△方面に向かい時速約70から80キロメートルで進行するに当たり、同所は長野県公安委員会が最高速度を40キロメートル毎時と指定した道路であり、自車進路上を右から左へ横断し道路中央付近で一旦佇立した被害者G子(当74歳)を認めていたのであるから、このような場合自動車運転者としては、適宜安全な速度に減速することはもちろん、同人の動静を注視してその安全を確認しつつ進行し、事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、右被害者を認め時速約60キロメートルに減速したものの、同人は自車が通り過ぎるまで佇立しているものと軽信し、同人に対する動静注視不十分のまま右速度で進行した過失により、直近に至り、再び横断を開始した同人を認め、衝突の危険を感じ急制動するとともに右に車体を倒して衝突を避けようとしたが及ばず、自車前部で同人を跳ね飛ばし、よって、同人に対し全治約四か月を要する左下腿骨開放性骨折、右下腿骨骨折の傷害を負わせ
第6 前記事故を起こしたにもかかわらず、直ちに車両の運転を中止して上記被害者の救護その他交通の危険を防止するに必要な措置を講ずることなく、運転車両を上記事故現場に放置したまま逃走し、かつ、最寄りの警察署の警察官に対し、上記交通事故の発生日時場所等、法令に定められな必要な事項を報告しなかった
ものである。
(法令の適用)
第1の事実につき 刑法235条
第2及び第3の事実につき 刑法235条、60条
第4の事実につき 道路交通法64条、118条1項1号、道路運送車両法97条の3第2項109条1号、
第5の事実につき 刑法211条前段
第6の事実につき 道路交通法72条1項前段、117条、72条1項後段、119条1項10号
(処遇の理由)
1 少年は、上記罪となるべき事実以外にも、長野県警○○警察署から長野県○○児童相談所に対し、恐喝と原動機付自転車1台の窃取が通告され、同所における少年との面談の際には、万引き、バイクの無免許運転などが聴取されており、これらと本件における少年の供述によれば、少年のバイク窃盗及びそれを用いた無免許運転は、常習化しているといっても過言ではなく、非行傾向の相当な進行が認められる。
2 一方、これらの行為に対する少年の規範意識は、鑑別結果通知、少年調査票及び本件審判時における少年の供述から著しく低いことが認められ、これは、罪となるべき事実第4ないし第6について、本件観護措置がなされる前に警察による取り調べがなされたにもかかわらず、鑑別所における課題作文「今回の非行について」において一切触れられていないことにも顕著に現れている。
また、少年が、自己の欲求にのみとらわれ、規則等に合わせて自己の行為を律する能力が極めて乏しいことも同様に認められる。
3 これに対し、少年の保護者は監護能力の限界を感じている状況であり、同人及び学校関係者らは、児童養護施設等における措置を検討したものの、少年の意向などから実施されなかった。
4 以上を踏まえて保護処分の種類について考えるに、ひき逃げを含む本件非行の重大性、少年における非行傾向の進行、保護者の監護能力が十分でないこと、少年が本件非行の重大性を認識しておらず、内省が十分でないこと、少年に対しては、日常生活に根ざした規律、規範意識が欠如していることが認められ、これらを身に付けさせる必要性が認められることを考慮すると、この際矯正施設へ収容し、少年に対し本件非行事実に対する内省を促すとともに、社会生活に適応できる健全な価値観、規律感を育てるため、相当の期間強力な働き掛けを行う必要がある。
なお、同人の下顎部には、同部骨折に対する治療によりマイクロプレートが埋め込まれているが、これを向こう2か月以内に除去する必要が認められることから、医療少年院において右施術を行い、これが終了した後、初等少年院に移送することが望ましいと考えられる。
5 よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を医療少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。
(裁判官 常盤紀之)
〔参考1〕 処遇勧告書<省略>
〔参考2〕 抗告審(東京高 平11(く)158号 平11.5.25決定)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣意は、少年の抗告申立書のとおりであるから、これを引用する。
所論は、要するに、医療少年院に送致した原決定の処分は重過ぎて著しく不当である、というのである。
そこで、関係記録により検討すると、本件は、乗り回して遊ぶ目的で、単独または共犯者と共謀し、自動二輪車などを窃取した三件の窃盗と、無免許で、ナンバープレートのない自動二輪車を運転し、その運転中、道路を横断しようとして道路中央付近で一旦立ち止まった被害者を認めながら、その動静を十分に注視せず、安全な速度に減速しないで進行した過失により、再び横断を開始した被害者を直近で認め、急制動をするなどしたが、間に合わず、被害者に衝突してはね飛ばし、被害者に全治約四か月を要する左下腿骨開放性骨折等の傷害を負わせ、このような事故を起こしながら、被害者の救護等をしないで逃走した事案である。窃盗や無免許運転の犯行動機に酌量の余地はなく、事故により被害者の被った傷害は重大であり、事故現場からそのまま逃走した救護義務違反等の犯行は悪質である。少年は、自分の好きなように行動してもそれで通用するという気持ちが強く、規範や社会的な枠組に合わせて行動するよりも目先の楽しさを求めたり、したいことを優先させている。現在、中学三年生であるが、中学二年生ころから登校日数が少なくなり、中学校への帰属意識は乏しく、学校外の友人との交遊に楽しさを見いだし、無免許で原動機付自転車などを運転していた。少年は、恐喝やバイク盗の触法行為により、平成10年6月ころ、児童相談所に通告され、一時保護で指導されたにもかかわらず、半年もたたない間に本件の二つの窃盗の非行を犯し、その後、これらの事件で調査官の面接を受けたが、その日に本件の非行である自動二輪車を窃取し、さらに、その後には、本件の無免許運転、交通事故、ひき逃げの犯行を次々に行なっている。そして、観護措置をとられて鑑別所に入所したものの、反省は深まっていない。少年の家庭は、母との二人暮らしであるが、母は、少年に対して強く注意をすることができずにきており、今後の指導は期待できない。以上のような事情に照らすと、少年に対しては、この際、相当長期間施設に収容して矯正教育を受けさせる必要があり、少年が下顎骨骨折の治療によりマイクロプレートが埋め込まれ、その除去手術を近いうちに実施する必要があることから、少年を医療少年院に送致した原決定は相当であり、著しく重い処分とは認められない。
よって、本件抗告は理由がないので、少年法33条1項、少年審判規則50条により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 高橋省吾 裁判官 青木正良 本間榮一)